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高知地方裁判所 昭和60年(ヲ)116号 決定

申請人

有限会社陣山不動産

同代表者

大久保寛

申請人代理人

田村裕

主文

高知地方裁判所昭和五八年(ケ)第二〇一号不動産競売申立事件について同裁判所が昭和五九年一二月五日にした、別紙(二)記載(1)ないし(3)の各不動産につき、申請人有限会社陣山不動産を買受人とする旨の売却許可決定を取り消す。

理由

一申請の趣旨及び理由

申請人の申請の趣旨は主文と同旨であり、その理由は別紙(一)記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  一件記録によれば、本件売却許可決定に至る経緯及びその後の事情について、次の事実が認められる。

(一)  当裁判所は、債権者申請外株式会社愛媛相互銀行の申立に基づき、債権者申請外山崎良洋所有にかかる別紙(二)記載(1)ないし(3)の各不動産(以下、「本件不動産」という。)に対する不動産競売開始決定を昭和五八年九月八日に行い、これに伴い、執行官による現況調査及び評価人による評価が開始された。そして、評価人である申請外掛水智(以下、「掛水評価人」という。)は、別紙(二)記載(1)及び(2)の各土地(以下「本件土地」という。)実測面積が合計一六一・〇五平方メートルの公簿面積とほぼ一致することを前提とし、いわゆる建付地減価をした一平方メートル当りの価額を三万五、五二〇円と算定のうえ、これに上記公簿面積を乗じた数額にほぼ一致する五七二万円(一、〇〇〇円未満切捨て)を本件土地の評価額として採用した。そして、当裁判所は、昭和五九年四月二〇日に掛水評価人による別紙(二)記載(3)の建物(以下、「本件建物」という。)の評価額四五三万円との合算額に合致する一、〇二五万円を本件不動産の最低売却価額と定め、土地、建物全部の一括売却を実施した。

(二)  その後、本件不動産は、当裁判所の同年一〇月五日付決定により、同年一一月一四日から同月二一日までの間期間入札に付され、申請人(同月二一日買受申出)が入札価額一〇二八万三〇〇〇円で買受申出人となり、同年一二月五日当裁判所において同人に対する売却許可決定が言い渡され、同決定は、同月一三日に確定した。

(三)  申請人は、上記売却許可決定確定後、土地家屋調査士である申請外坂本嘉民に本件土地の面積の測量を依頼したところ、同面積は一二五・七七平方メートル(〇・〇一平方メートル未満四捨五入)であることが判明した(一件記録を精査しても、この測量結果を覆すに足りる資料はない。)。

(四)  こうして、申請人は、昭和六〇年二月一四日に本件申立をするとともに、同月一五日に債務者に対して内容証明郵便で本件不動産の売買契約を解除する旨の意思表示をした(同意思表示は同月一六日に債務者に到達した)。

なお、本件不動産の代金納付期限は、当初同年一月一二日午前一一時と定められていたが、その後伸長され、現在は同年五月三一日午後二時と定められているが、申請人は代金を納付していない。

2  そこで、以上の認定を前提として本件売却許可決定の当否について検討する。

(一)  前途のとおり、掛水評価人は、本件土地の面積を実際よりも約三五・二八平方メートル過大に認定したうえで、その価額を評価し、当裁判所もこの評価に基づいて本件不動産の最低売却価額を定めたものであるから、もしこの当時本件土地の正確な面積が判明していたならば、本件不動産の最低売却価額は当然に変更を来たしていたものと考えられる。

(二)  ところで、民事執行法七五条一項は、最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合、当該損傷が軽微でないときには、売却許可決定後であつても代金を納付する時までに執行裁判所に対し、当該売却許可決定の取消しの申立をすることができる旨定め、買受人の保護を図つているが、こうした同法条の趣旨に照らすならば、同法条にいう不動産の「損傷」とは、単に当該不動産が物理的に損傷した場合のみならず、当該不動産の面積、数量等が不足していることが判明した結果、当該不動産の価額が著しく低落した場合をも含むものと解すべきである。

(三)  そこで、これを本件についてみるのに、本件土地は、実際には最低売却価額決定の前提となつた面積の約七八パーセントの面積しかなく、したがつて、その価額が約二二パーセント低落しているのであるから、その損傷は軽微ではない。

なお、民事執行法七五条一項は、買受けの申出をした後不動産が損傷した場合について規定し、買受けの申出をする前に不動産が損傷した場合には規定がない。しかし、最高価買受申出人又は買受人にとつては、この場合でも目的不動産について生じた損傷が最低売却価額にも、物件明細書の記載にも反映されないという点では、買受けの申出をした後不動産が損傷した場合と何ら異なるところはないのであるから、同法条は、買受けの申出をする前に不動産が損傷していたにもかかわらず、買受人が損傷の事実を知らずに買受けの申出をした場合にも拡張して適用されると解するのが相当である。これを本件についてみるのに、一件記録を精査しても申請人において買受けの申出以前に本件土地の面積が公簿面積よりも小さいことを認識していたことを認めるに足りる資料はない。

従つて、本件土地についての売却許可決定は取り消されるべきである。

(四)  本件建物については、損傷の事実を認めることはできないが、一括売却の趣旨に鑑み、本件土地と同様、これについての売却許可決定も取り消すこととする。

3  よつて、申請人の本件申請は理由があるからこれを認容し、主文のとおり決定する。

(田中 敦)

別 紙(一)

〔申請の理由〕

御庁昭和五八年(ケ)第二〇一号不動産競売申立事件について、申請人は昭和五九年一一月一四日から同月二一日までの間の期間入札において最高価買受の申出をなし、同年一二月五日売却許可決定を得、同決定が確定し、代金納付期限を昭和六〇年二月一五日と定められている。

しかしながら、本件土地は、合計で公簿面積が一六一・〇五平方メートルであるにもかかわらず、右売却許可決定後において土地家屋調査士坂本嘉民の行つた本件土地の面積実測の結果は合計一二五・七七平方メートル余りで、上記公簿面積より約三五・二八平方メートル狭いものであることが判明した。従つて、本件不動産の最低売却価額は、本件土地の面積を実際よりも約三五・二八平方メートル過大に誤認した結果、同土地について誤りを含む評価に基づいて決定されており、この誤認にかかる土地面積とこれに対応する土地価額及びそれらがそれぞれ本件土地の面積に占める割合等を考慮すると、同売却価額の決定については重大な誤りがある。

よつて、前記売却許可決定についてこれを取り消す旨の決定をされるように申請する。

別紙(二)<省略>

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